研究の背景

熱帯地域には、「生産林」と呼ばれる、木材を商業的に半永久的に生産するための熱帯降雨林が広大に広がっています。デラマコットがあるボルネオ島は世界で3番目に大きな島ですが、その面積の約半分が生産林であると見積もられています。そこでは、商業的に取引される樹木のみを選択的に抜き切りする、択伐と呼ばれる伐採が行われてきました。しかし、伐採が過度に行われるために、熱帯降雨林の減少や荒廃が急激に進んでいます。一方、厳正な保護を目的とした保護区の面積は限られており、今後その面積が増える可能性はほとんどありません。従って、生産林をこれ以上荒廃させることなく持続的に管理することが、熱帯林減少を防ぐ最も現実的な方法なのです。択伐により木材を生産しながら熱帯降雨林を維持することは、果たして可能なのでしょうか?

これを達成するために、1990年代以降、デラマコットに試験的にReduced Impact Logging(RIL、低インパクト伐採)が導入されました。しかし、RIL(低インパクト伐採)には、果たして、期待に見合った環境へのプラスの効果はあるのでしょうか?私たちは、森林生態学の手法を使って、RIL(低インパクト伐採)の環境保全上の効果をあらゆる角度から検証しています。

一方、この伐採方法には大きなコストが発生します。このコスト高を補い、RILを普及させる経済メカニズムが森林認証です。デラマコットは、東南アジアで初めてFSC森林認証を取得した熱帯降雨林です。また、熱帯降雨林には気候変動を緩和する目的で炭素貯留の役割が期待されており、これにもREDD+という国際的な経済メカニズムが作られようとしています。これらの経済メカニズムが機能するためには、熱帯降雨林の炭素貯留量や生物多様性保護効果が第三者に検証可能な形で厳正に評価されなければなりません。しかし、その手法は未だに定まっていません。私たちは、そのための手法開発も行っています。

研究目的

デラマコット森林保護区をモデル地に、RILの生物多様性保護効果の検証とより良い持続的森林利用の追究を目的とし、以下の研究をサバ州・森林局の森林研究所と共同実施しています。

(1)健全な生態系を指標するための生物多様性指標の開発と標準手法の提言

(2)生産林内部に保護区(特に大型哺乳動物)を設定するための定量的な生態系評価手続きの提言

(3)衛星データを用いた炭素貯留量の広域把握評価手法の開発と、低インパクト伐採導入による炭素貯留と生物多様性保護の追加性効果の検証